日本の大企業の7割にあると言われる社員食堂で、サステナブル・シーフードを使ったメニューを出すことが、新たな価値の創造につながる。2018年3月にパナソニックが初めて導入してから一年半で急速な拡大を見せるこのムーブメントを振り返り、今後の展開を考える。
2019年10月に初めて社員食堂へのサステナブル・シーフード導入を実現したMS&ADインシュアランスグループの富田良知氏は、保険会社としての取り組みを語った。顧客にリスクを伝え、リスクの発現を防ぎ、万が一の事故発生時には経済的な負担を軽減する保険会社として、2030年に目指すのは「レジリエントでサステナブルな社会」の実現。SDGsは社会の変革におけるビジネスリスクであり、ビジネスチャンスでもあるとの意識を社内に浸透させる中で、社員食堂にサステナブル・シーフードを導入した。将来にわたる原材料調達の持続可能性は企業にとって大きなリスクであり、MSC、ASCなどの認証取得により「リスクマネジメントに正面から向き合う企業や組織を保険会社として支えていく必要がある」と富田氏は述べた。
第1回の“サステナブル・シーフードデー”は「長蛇の列ができ、通常の売上より40%増の大盛況」と富田氏。こうした取り組みは、同社が会長会社を務める“企業と生物多様性イニシアティブ”(JBIB)を通じてパナソニックの活動を知り、ノウハウの共有を得て実現した。JBIBは生物多様性の保全に賛同する14社により発足した団体(現44社)で、COPへの参加など10年以上の実績を誇る。「企業のパートナーシップを生かし、サステナブル・シーフードの新たな展開も考えていきたい」と富田氏は語った。
パナソニックの取り組みの背景には、まず、20年にわたる「海の豊かさを守る活動」の中で南三陸のカキ養殖業者による日本初のASC認証取得に協力した経験があり、「消費の部分でも貢献できるのではないかと考えた」と同社の喜納氏は振り返る。また、30年来のオリンピック・ワールドワイド公式パートナーとして、持続可能な調達を社員食堂から盛り上げ、レガシーの構築を目指す。さらに、SDGsの14番目の目標「海の豊かさを守る」に向けた貢献。社員食堂への導入はスタートであり、そこから水産資源の危機的状況やサステナブル・シーフードの意義、認証マークの認知の拡大、国内10万人の従業員の意識や購買行動を変える可能性を見据え、さらに他企業での導入による社会的インパクトの拡大を図る。
サステナブル・シーフードを掲げたメニューを出すには、生産者のみならず、サプライチェーンの各企業がCoC認証を取得する必要があり、パナソニックでの導入は、エームサービスが給食業界で初めて認証を取得して実現した。この一年半で給食会社、さらに食品流通業者にも認証取得が広がっている。
「サスシー」の略称で社員に浸透し、本社では選択率が常に30%を超える人気メニューとして「美味しいサスシー」が定着したパナソニック。2020年度には全国100拠点すべての社員食堂での実施を目指すとともに、導入に関心を持つユーザー企業のネットワークを提案する。新規導入および興味・関心の維持のための情報・ノウハウを共有するネットワークである。給食会社・流通業者・生産者を巻き込むためにも「まずは導入企業の拡大が先決」と言う喜納氏は、「オリンピックという節目の年にネットワークを立ち上げ、SDGsの最後の年である2030年に向けて盛り上げたい」と述べ、参加を呼びかけた。
西洋フードの秋田浩稔氏は、給食会社の立場から「なかなか需要が見えにくいので、ユーザー企業同士で要望を集約するのは有効」と述べた。同社は、英国を本拠に世界45カ国でフードサービスを展開するコンパス・グループ内で日本地域を担当し、パナソニックを含めた企業の社員食堂のほか、県庁や都庁などの職員食堂からも受託し、サステナブル ・シーフードの提供を進める。ユーザーの情報を集めてメニューや素材を共通化すれば、給食会社や流通業者の調達活動につながり、生産地にもつながる。「需要チェーンの構築に企業ネットワークが活用されれば良いと思う」と秋田氏は述べ、「B to B向けの食材確保のために給食会社に苦労をかけている。需要を大きくすることによって業務効率の向上やコスト低減を進めたい」と喜納氏も応えた。
なぜ、社員食堂でサステナブル・シーフードの導入に取り組むのか。それは、海洋資源が危機的な状況にあるからだ。「企業ネットワークが大きな波を起こし、啓蒙活動になればと思う」と秋田氏は述べ、セッションをしめくくった。
松井 大輔
ファシリテーター
シーフードレガシー 企画営業部
幼少期に経験した漁業体験から水産資源の減少に危機感を覚え、2015年にアジア初となるMSC/ASC認証した水産物を提供する独立系飲食店をオープン。2017年には業態を変更し、専門組織と協力して厳格な水産調達方針を定めたレストラン「サステナブルシーフードレストランBLUE」をオープンさせる。現在は、株式会社シーフードレガシーの企画営業部統括部長として、企業のサステナブル・シーフード調達をサポートしたり、クライアント企業に利益を生み、水産資源の持続可能性にも貢献できるようなプログラムを開発。サステナブル・シーフードがビジネスとして日本に根付くようなコンサルティングを行っている。
富田 良知
スピーカー
MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 総合企画部 サステナビリティ推進室 課長
葛飾出身。1991年4月、三井住友海上火災保険株式会社に入社.。
以来、地域営業に始まり、自動車ディーラー営業、インドネシア駐在、企業営業、生保会社出向等あらゆる営業部門を経て、2017年4月から現部署に異動。2005年より続けているインドネシア熱帯林再生プロジェクトや、企業の生物多様性イニシアティブJBIBの活動、社員へのサステナビリティ取組推進等を担当している。
喜納 厚介
スピーカー
パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部 事業推進課 課長
パナソニック株式会社に1988年に入社。
以降、業務用AVCシステムの大手法人営業、パナソニックセンター東京やリスーピア等の施設の企画・構築、CEATECやエコプロなどの展示会の企画・運営に携わる。2016年4月よりCSR・社会文化部 事業推進課 課長。
秋田 浩稔
スピーカー
西洋フード・コンパスグループ株式会社 グループパーチェシング&マーケティング部門 購買部 スペシャリスト
SOZAI(そうざい)企業にて、主に水産物にかかわる製造、企画開発、調達に携わる。
2013年よりコントラクトサービスの西洋フード・コンパスグループ㈱において、
社員食堂、ヘルスケア業態で提供されるメニューの水産物を中心とした食材調達を担当。
10年以上にわたって水産物の調達業務に携わり、極端な漁獲量の変動が度々起きている現状を目の当たりにしてきている中、
2017年よりSustainable Seafoodの取り組みを開始。
コントラクトサービス企業として、主に社員食堂へのSustainable Seafoodの導入を通じて、お客様と理念、価値観、想いの具現化に取り組んでいます。
小さな力かもしれませんが、私たちの活動によって、皆さんがSustainabilityについて考えるきっかけや、世の中の動きが変わっていくきっかけになればいいなと思います。
鹿児島大学大学院水産学研究科修了(水産学修士)
日本さかな検定1級