TSSS2019

C-5 アジア市場で広がるレスポンシブル養殖と需要の拡大

C-5 アジア市場で広がるレスポンシブル養殖と需要の拡大

日本は水産物の半分を輸入している。特にサケとエビの多くは海外の養殖品である。サケ・エビの認証例も多いBAP認証の運営者と利用者が集い、持続可能な養殖業をどのように日本で広げていくか話し合った。

 

 

アジアに広がりつつあるBAP認証

BAP(Best Aquaculture Practices)認証を運営する世界養殖連盟(GAA)のハート氏は、日本の輸入水産物の筆頭であるチリのサーモンや東南アジアのエビにBAP認証の取得が浸透していると紹介した。BAP認証の主要な消費マーケットは北米だが、ここ数年で中国を中心としたアジアの消費マーケットも拡大している。日本でもここ1年で市場との連携を深め、認知度を高めている。BAP認証を得た生産者数は世界全体で2018年に前年より30%近く伸びた。ハート氏は、「BAP認証の運営主体は業界の協会だからビジネスを理解している」と強調した。また、抜き打ちのサンプリングテストを匿名で実施できることなど、BAP認証の特徴を解説した。

 

 

おいしくてサステナブルが当たり前の社会へ

西洋フード・コンパスグループは、日本で約1600カ所の社員食堂、高齢者施設や医療施設の食事の提供や、パーキングエリア等の受託運営を行っており、責任ある調達や地域社会への貢献のため、サステナブル・シーフードを扱っている。2018年には、これからは水産養殖物が重要と考え、日立製作所の食堂で日本初のBAP認証水産物の提供を始めた。秋田氏は、日本で導入事例が少ないBAP認証を選んだ理由として、GSSIに加え、食の安全性に関するGFSI(世界食品安全イニシアチブ)に承認されていることロゴ使用や監査の費用負担が不要でユーザーの障壁が低く拡大性が高いこと、などを挙げた。

BAP認証のロゴには、加工場認証で1つ星、加工場と養殖場の認証で2つ星、飼料工場や孵化場まで認証されれば3つ星、4つ星とランクがある。同グループは今後、バラマンディやトラウトやアトランティックサーモンのBAP認証品を新規に扱い、既存のバナメイエビやパンガシウスは星の数がより多いBAP認証に置き換えていく。秋田氏は、「イベント的に使うのではなく、当たり前にサステナブル・シーフードを食べていただく状態を創出する。大切なのは、おいしいという食体験。次も食べたい、あの人にも食べてもらいたいという連鎖がサステナビリティにつながる」と語った。

 

 

養殖水産物は効率の良いタンパク源

熱帯にすむスズキ目のバラマンディは、過去10年で急速に北米での知名度を上げた。その立役者がゴールドマン氏である。世界の天然漁業のピークは30年も前に過ぎているが、人口の激増で動物タンパク質の供給は逼迫(ひっぱく)している。魚は変温動物で代謝にあまりエネルギーを使わず、水中生活なので骨格維持のための質量も必要ない。つまり、畜産以上の変換効率で飼料からタンパク質を生成できる。そこでゴールドマン氏は、それまでの養殖魚のイメージを払拭しグローバルな嗜好に合う「養殖に適した新しい魚種」を探した。そして、油脂の含有分量が非常に多く調理しやすいバラマンディを見出し、養殖会社を立ち上げて世界最大の生産者となった。養殖の推進は天然水産物の「節約」にもなる。ゴールドマン氏は、「今の地球は岐路に立たされている。それに気付いた若者や意識の高い消費者は、単なるおいしさや費用対効果や便利さ以上のことを求めている。サステナブル・シーフードの重要な推進力である彼らの価値観や課題意識に応えることは、大きな機会だ」と述べた。

 

 

スコットランドのサケが秘める可能性

ザ・スコティッシュ・サーモン・カンパニーは、スコットランドの約60カ所の養殖場で3万トン強の生鮮アトランティックサーモンを生産し、その70%を世界26カ国に輸出している。主に欧米向けで、アジアでは2年前から本格的なマーケティングを開始した。日本市場は生鮮サーモンを約3万7000トン輸入しているが、約90%はノルウェーサーモンである。同社は、「ストレスがかからないよう3年かけて育てたサケのおいしさ」以上に、「発祥地であるスコットランドという国自体をプライドと情熱を持ってブランド化」しており、「量販店と組んでパッケージにステッカーを貼ることが最も効果的」と川崎氏は述べた。サステナビリティに関して市場は未成熟で、まだ常に説明が必要だが、川崎氏は、「環境重視でないと会社は持続的成長が見込めない。サステナビリティや環境の重要性を地道にアピールしていきたい」と語った。

最後のディスカッションでは、水産物調達に10年以上携わる秋田氏が、「例年通りの調達ができなくなってきている。資源は危機的だが、それ自体を知らない消費者もいるため、取り組みの前提の浸透を図ることがポイントだ。日本ではSDGsやESG投資の面でも2030年が重要」と述べた。ゴールドマン氏は、「日本は短期間でここまできた。東京五輪後の継承は、リーダーシップとビジョンの問題」と語り、今後さらにシェフの発信力やSNS等も活用して一般家庭の食卓も巻き込んでサステナブル・シーフードを普及していく必要性を一同で確認し合った。

FACILITATOR / SPEAKER

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