TSSS2019

A-5 企業が生産現場に共同投資するビジネスモデル

A-5 企業が生産現場に共同投資するビジネスモデル

多くの課題を抱える小規模漁業者をサプライチェーンの企業はどのように支援できるのか。投資としての漁業者への支援や、複数企業の共同ファンドによる漁業改善プロジェクトへの資金援助など、「世界の事例に学びながら日本流の解決を見つけていければ」と進行役の村上春二氏がテーマを提示した。

 

 

小規模漁業の改革が経済効果につながる

スイスのコンサルティング会社Blueyouは過去15年間、民間セクターの資金を投じ、主に東南アジアと南米でコミュニティ・ベースの漁業や小規模な養殖の改善プロジェクトに取り組んできた。具体的には、フィリピン、ベトナムなどの漁村でコールドチェーンやマーケットアクセスの改善によって漁獲後の廃棄を減らす取り組み、漁業者の協働による水産物加工などがある。「銀行もないような小さな漁村では資金調達の支援も行っている」とBlueyouのレネ・べングレル氏は語った。

世界全体の漁獲量の半分は沿岸地域の小規模漁業によるもの。その改善は海洋資源を持続可能なレベルに回復し、IUU(違法・無規制・無報告)漁業と戦い、地域の価値を上げることに貢献する。最近の調査によると、持続可能な漁業が実現すれば漁獲量が年間23%増えるという推計もある。「グローバルな漁業改革に成功すれば大きな経済効果につながる。民間セクターにとって、このような改革に取り組むことは脅威ではなく、むしろチャンスととらえるべき」とべングレル氏は述べた。

 

 

海洋資源を守るため競争以前の協力を

米国とカナダの主要水産企業11社が加盟するSea Pactは、共同のファンドを立ち上げ、2013年設立以来、さまざまなプロジェクトに資金を提供してきた。商品である海洋資源の長期的な持続可能性のためにはライバル企業が協力して取り組む「競争以前の協力」という考え方である。「企業が協働してプロジェクトに資金を提供し、業界のサステナブルな将来に向けて問題を解決していくことが重要」とジョンソン氏は述べた。漁網によるクジラ類の混獲リスク軽減、大規模な養殖業の発展に向けてのムール稚貝の凍結保存など、漁業や養殖の研究・調査・改善に取り組む13か国22件のプロジェクトに対し、55万ドルを超える直接資金、追加資金の調達を含めれば100万ドル以上を提供している。

「共同ファンドに参加する流通業者にとってのメリットは?」という村上氏からの問いに、ジョンソン氏は、「メンバー企業は、これまでの投資に対するリターンの価値について、個別のプロジェクトだけでなく、サプライチェーンの中でのパートナーシップの構築、Sea Pactとしての発言力の高まりなど、もっと大きな形で返ってくるということを実感している。サプライチェーンの中で自分たちが何を果たすべきかがわかってきた」と答えた。

 

流通業者の支援で認証取得を目指す

羽田空港の中に鮮魚センターを持ち、北海道や九州から集荷した魚を米国やアジアに直接輸出する羽田市場(2014年設立)社長の野本洋平氏は、小規模漁業者のMSC認証取得を支援した同社の取り組みについて発表。本来は漁業者が取得するMSC認証だが、自力取得が困難な小規模漁業者のために、諸々の申請事務手続き、必要資金の確保を羽田市場が代行する形で認証を目指した。「1つの企業が漁業者を数軒巻き込んでMSC認証を取りに行くのは世界初の試み。東京オリンピックにサステナブル・シーフードを提供したかった」と野本氏はその思いを語る。

ところが、予備審査を通じて直面したのは、水揚げ量をはじめMSC審査基準に必要な客観的で明確なデータがそろわないこと、漁協・水産センター・自治体などの役割が細分化され必要な情報の所在がわかりにくいこと、そして、MSCではなくマリン・エコラベル・ジャパン(MEL)を推奨する自治体との意見調整という壁であった。結局、MSC認証を断念する結果に終わったが、今回の取り組みを通じて日本の漁業が抱える課題が浮かび上がった。ただ、一つの成果として、今回のMSC予備審査の経験を踏まえて、シーフードレガシーと地域漁業者、水産試験場の協働により、北海道初の漁業改善プロジェト(FIP)が発足し、「とても良い取り組みが始まっている」と野本氏は評価する。

海外の事例に見られるような「漁業者と流通業者の非競争的な協働は、日本にどのように当てはまるのか?」という村上氏の問いに対しては、「各地の小規模市場による伝統的な流通の仕組みでは、流通業者は買いたたき、漁業者は少しでも多く獲ろうとして資源が枯渇するという負のスパイラルから抜け出せない。流通の仕組み自体を変えていかないと解決できない」と野本氏は述べた。

「流通業者にとっても資源の持続可能性は長期的な経営戦略に含まれる。その重要性を認識できる今がチャンスではないか」と進行役の村上氏は結んだ。

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