TSSS2019

C-2 漁業法改正:漁業法改正で描く浜の未来

C-2 漁業法改正:漁業法改正で描く浜の未来

水産庁は2018年12月に漁業法を大幅に改正した。その2年後の施行に向けて、現場から3つの発表があった。東京海洋大学産学・地域連携推進機構准教授の勝川俊雄氏は多様な関係者の接点づくり、宗像漁業協同組合員でいかつり漁業者の桑村勝士氏は信頼関係の構築、そしてエンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)海洋部門 ジャパン・ディレクターの大塚和彦氏は定置網の課題などを語った。

 

 

改革には当事者参加のボトムアップが必要

勝川氏は、今回の漁業改革について「今の山を降り、谷を越えて別の山に登るようなもの。ビジョンを共有すれば遭難のリスクは下がる」と述べ、情報提供と議論のための場づくりの実例を紹介した。改正漁業法の下では、漁業者が自主的に行ってきた漁獲規制を国が責任を持って行う。MSY(魚が最も生産的になるレベル)を維持し、7魚種にしかなかったTAC(漁獲枠)を拡充し、さらにIQ方式で個々の漁業者に配分する。世界各国で導入され資源の回復や漁業の成長産業化をもたらした手法だが、漁獲量は一時的に減る。長年かけて利害調整してきた部分最適解を全体最適化する過程で混乱も生じる。勝川氏は宮城県・石巻で、地元の漁業者集団「フィッシャーマンジャパン」や行政と連携して、セリで対立構図にある漁業者と水産加工流通業者を集めて2019年に研究会を始めた。結論を無理にまとめず、接点がなかった多様な面々の対話の場としたところ、参加者から継続を望む声が相次いだ。勝川氏は、「法改正まではトップダウンでも、港ごと漁業ごとに事情が全く異なるため、具体的な制度設計には当事者中心のボトムアップが必要だ。行政が一部の専門家と内輪で決めてしまうモデルでは、もう回っていかない。たたき台を落として現場に議論してもらうよう、日本の合意形成のあり方を変えなければ」と語った。

 

 

実績データから課題を洗い出し運用の検討を

桑村氏は沿岸漁業者の立場から、改正漁業法でTACのトン数を切り分けていった末端にある「その他漁業」の隻数の多さを指摘した。日本の漁業は95%が個人経営者、主に沿岸の漁船漁業で、零細ながら国の漁獲量の4分の1を占める。入会(いりあい)や遊漁もあって漁場利用も複雑だ。小さな枠内では「とてもじゃないが個別割り当ては無理で、結局は先取り競争せざるを得ない」。しかし沿岸漁業の再生のために改革は必要と考える桑村氏は、マアジの漁獲実績データを用いて新制度運用の課題を検証した。全国の各管理区のシェアを計算し、水産研究・教育機構の最も魚を海に残す評価による「仮想TAC」を設定したところ、枠が小さな所では魚群が来遊した途端に超過し、非常に窮屈になることがわかった。「各所の凸凹で相殺できるなら、シェアが低い所は一括管理などの工夫が必要だろう」。一部の中型まき網など、試算すると解禁後すぐ休漁となる例もあった。「可視化して課題を洗い出し、一つずつ掘り下げて検討することが重要だ」。

また、桑村氏は、信頼関係がボトムアップのベースと強調した上で、「互いの顔が見える地域には、慣習的な自治機能がある。地域全体の秩序維持の流れが壊されはしないか、という点が沿岸漁業者には不安」と述べ、「都道府県や漁協・漁業者の伝統的な手法を、新しい枠組みの中で活用することが、信頼関係の構築にもつながっていく」とまとめた。

 

 

日本独特の定置網の持続性を客観的に評価したい

EDFの大塚氏は、安定雇用かつ沿岸漁業生産量の約4割を占める日本独特の定置網漁業の課題を発表した。日本は漁場に恵まれながらTAC魚種以外の水産資源は、MSYを1として0.5弱しかなく平均でも0.7だ。2015年に世界の生産量の10%*1を超えたMSCの認証魚種は、白身魚や貝類、サケ類に偏る。定置網で主に獲る小型回遊魚やイカ類は認証割合が低い上に、「待ちの漁業」で多魚種を獲るため、認証されない。

経営リスクを分散できる利点はあるが、「いる魚を獲っていれば持続的かというと必ずしもそうではない」。そこでEDFは、大学や企業やNGOなどと発足した「持続可能な定置網漁業プロジェクト」で、絶滅危惧種のウミガメや規制対象のクロマグロ幼魚を生きたまま逃がす研究例などをまとめ、選択性向上に向けたガイドラインを作成中だ。認証制度にフィードバックすべくMSCと検討を進め、イオンとは消費者への啓蒙も考えていく。大塚氏は、「400年も昔からある定置網だが、客観的手法で評価して、胸を張って持続可能であると言える形にしたい」と述べた。

改正漁業法の運用については、国と独立した組織が権限を持ち、その中で多様な関係者が議論して政策に反映できる米国を例に挙げ、日本も「国として仕組みを整えていくことも大事では」と語った。

花岡は最後に、「東京と温度差がある地方でTSSSのようなイベントを行ったり、企業の事業やメディアを通じてコミュニケーションを図ったり、一人ひとりがプレイヤーという意識で、日本全体の水産改革を成功に導ければ」と期待を込めた。

 

*1 :2018年の数値では世界の生産量の15%にまで拡大。

 

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