TSSS2019

Luncheon-B 養殖、飼料開発、情報の可視化で持続可能性の達成を目指す

Luncheon-B 養殖、飼料開発、情報の可視化で持続可能性の達成を目指す

午前のセッションの後、昼休みを利用してランチ・セッションが行われた。分科会Bの会場では3名のスピーカーが登場。会場では、MSC・ASC認証の素材を使った和食レストラン「きしま」の弁当が振る舞われ、参加者はサステナブル・シーフードに舌鼓を打ちながら、プレゼンテーションに聞き入った。

 

 

サステナブル水産物生産にはイノベーションが重要

1人目のスピーカーは、オーストラリス代表のジョシュ・ゴールドマン氏。「バラムンディ」という魚を養殖魚とするサステナブルな養殖事業について紹介した。

気候変動の影響が深刻化する中、持続可能な漁業への移行は待ったなしの状況だ。そんな中、水産養殖は「食料生産の課題を解決し、サステナブルな世界を構築するための強力なツール」だとゴールドマン氏は言う。

同社では、大規模生産が可能で健康にもよい養殖のあり方を研究し、ベトナムでバラムンディ(スズキ目アカメ科)の養殖事業をスタート。養殖から処理・加工までの全プロセスを統合し、日本の活〆などの手法も採り入れることで、サステナブルな生産・流通の手法を確立した。「サステナブル・シーフードの生産においてはイノベーションが重要となる。今、天然の白身魚は乱獲で価格が高騰しているが、我々は養殖したバラムンディを求めやすい価格で提供し、様々な形で食の体験をグローバルに提供していきたい」と、ゴールドマン氏は抱負を述べた。

 

オメガ脂肪酸を豊富に含んだ養殖魚の飼料を開発

続いて登場したのは、ベラマリスのイアン・カー氏。スピーチでは、天然の海藻由来のEPAとDHAから作る、サステナブルな養殖飼料についての紹介が行われた。

DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸は、青魚などに多く含まれ、血流改善や中性脂肪の低減、脳や認知機能の維持向上など、様々な健康増進作用があることで知られている。世界的な健康志向の高まりを受けて、「OECD(経済協力開発機構)とFAO(国連食糧農業機関)は、2028年までに水産物の需要が2,500万トン増えると予測。水産物の需要と供給のギャップを埋めるべく、養殖魚の生産量も年率45%で急伸している」と、カー氏は指摘する。

魚に含まれるオメガ3脂肪酸は、魚の体内で合成されるものではなく、小魚などの生餌から摂取されるものだ。その一方で、養殖に使われる生餌はますます不足しており、オメガ3脂肪酸を豊富に含んだ飼料の調達を、サステナブルな漁業で賄うことは難しくなりつつある。そこで同社では、飼料として使われる魚油の代替品として、濃度50%超のEPA、DHAを豊富に含む藻類油を原料とした飼料を開発。「PCBやダイオキシン、重金属などに汚染される心配もなく、健康と食品安全の両面でメリットがある」養殖魚の供給を可能にし、養殖の世界に革新をもたらしつつある。「オメガ3脂肪酸は、人間にとって極めて重要な栄養素。EPA・DHAの新たな供給源として、サステナブルな養殖のために貢献していきたい」と、カー氏は思いを語った。

 

 

魚群の位置を可視化して船団運営を効率化

3人目のスピーカーは、ライトハウスの小川貴之氏。同社では漁師向けに、船舶用の情報プラットフォームを提供しているが、その主要サービスの1つに『ISANA』がある。これは、船団の漁撈機器のデータを視覚化することにより、漁船同士のコミュニケーションを効率化する船団運営システムだ。

「従来、出漁の際には、各漁船から『魚群反応あり』という無線連絡が入ると、意思決定をする漁労長は“言葉とカン”に頼って網を張る位置を決めていた。魚群の状況が正確にわからない状態で網を張るので、ロスも発生しやすいのが実態だった」と小川氏。こうした課題を解決すべく、同社は、漁船の位置情報や魚群探知機の反応を電波に乗せ、タブレットに一覧表示するシステムを開発。“言葉とカン”頼りの情報をICTで可視化することに成功した。今では全国各地でISANAの導入が進められており、すでに300隻以上に設置が完了しているという。 

従来、魚種、漁獲量、航跡などの漁獲情報は、ノートに手書きで記録されていた。一方、ISANAにはこうした漁獲情報を電子データとして蓄積していく、情報プラットフォームとしての機能がある。

とはいえ、「データを保存していくだけでは何も生まれない」と小川氏。今後、漁協や流通業者、研究機関との情報共有や活用が進めば、「データ分析による漁場予測や認証取得のサポート、消費者に対する情報提供など、様々な付加価値を生み出すことができる」と予測する。

年内に1,000隻への設置を目指しており、サービスは順調に拡大中。それゆえに、サステナビリティのために行動すべき責任も自覚しているという。「日本の漁業は“獲ったもん勝ち”の世界。法整備やモラルが行き届いていない状況で、船団の運営を効率化するISANAのサービスが広まれば、乱獲で漁業資源が底を尽くような事態になりかねない。我々は漁業資源のサステナビリティだけでなく、漁師という職のサステナビリティも考えていく必要がある。ISANAによる漁獲データの活用を通じて、2つのサステナビリティに貢献していきたい」と、小川氏は力強く語った。

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