TSSS2019

P-12,13 サステナブル・シーフードを勢いづける先駆者たち (第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード)

P-12,13 サステナブル・シーフードを勢いづける先駆者たち (第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード)

シンポジウム初日の締めくくりは、今年新設された「ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」の発表と表彰式だ。「日本で始まっているサステナブル・シーフードに関する取り組みを、よりいっそう活性化する目的で、その年に大きな功績を残したリーダーたちを表彰する」とシーフードレガシーの花岡和佳男代表が主旨を説明した。

 

「イニシアチブ」と「コラボレーション」の2部門で、先進的な取り組みを表彰する

アワードには2つの部門がある。組織や個人による取り組みを対象とし、次に続く動きを生みだす力を重視するイニシアチブ部門、そして複数の組織や個人がノウハウを共有することで実現した取り組みを対象とし、協働による大きなインパクトにポイントを置くコラボレーション部門だ。それぞれ4組、計8組のファイナリストが選出され、その中からチャンピオンが選ばれる。審査員はさまざまな立場からサステナブル・シーフードに関わる専門家8名がつとめた*。

周囲に影響を及ぼす先進的な「イニシアチブ」と、複数のプレイヤーの協働によって単独ではできない動きをつくり出す「コラボレーション」はそのまま、日本におけるサステナブル・シーフードの普及を支える2本柱でもある。

ファイナリストにはトロフィーと、協賛のパタゴニア日本支社から「パタゴニア・プロビジョンズ」のギフトボックス、チャンピオンには加えて同社のクラフトビール1ケースが進呈された。

 

協賛スピーチ:なぜパタゴニアがサステナブルな食に取り組むのか

表彰式に先立って、アワードを協賛するパタゴニア日本支社・プロビジョンズ マネージャーの近藤勝宏氏が登壇した。

アウトドア用品メーカーとして知られるパタゴニアだが、「パタゴニア・プロビジョンズ」は食品の製造販売を行う。近藤氏は「なぜパタゴニアが食品を作るのか、不思議に思う人もいるでしょう」と、その始まりを説明した。

パタゴニアは1960年代後半から1970年代にかけて、アメリカ最大の登山用品サプライヤーに成長した。しかし「売れば売るほど、自分たちの大好きな山を傷つけていることに気がついた」。創業者のイヴォン・シュイナードと仲間たちは悩んだ果てに、登山用品から撤退。事業を見直し、環境問題に取り組むようになる。その背景にあったのは、環境活動家デヴィッド・ブラウアーの「死んだ地球からビジネスは生まれない」という言葉だった。パタゴニアはこの事実に向き合い、「自分たちのビジネスが環境に与えるインパクトを減らす」ことと、「そうしたビジネスを成功させて周りを巻き込み、仲間を増やす」という2つの方法で活動してきた。

さらに2018年12月からは「私たちのビジネスは、地球を救うためにある」とミッションステートメントを変え、環境問題への取り組みを加速。2025年までにサプライチェーンを含めたビジネスのすべてについてカーボンニュートラルをめざす。

その中で現状維持にとどまらず、積極的に環境を回復させる方策を考えて注目したのがプロビジョンズ、つまり食糧問題だった。
取り組みのひとつが、多年草の麦だ。現在栽培されている麦はほとんどが一年草で、毎年の作付けを繰り返すことでだんだん土地がやせていく。そこでパタゴニアでは環境再生型の有機農業として、多年草の麦を植え、ビールを作っている。収穫後も枯れることなく、年々地中深く根を張って土中の状態を健全化し、また空気中の炭素を光合成で固定し、地中に長く蓄える。
シーフードで言えば、健全な森・川・海と強く結びつき、環境のバロメーターとも言われるサーモンへの取り組みにも同様の意味がある。また食物連鎖の下層にあり、少量の資源で育つムール貝は、水を浄化するはたらきがあり、食品としても栄養豊富だ。自分たちも食品を通して、少しでも環境に対してよい影響力を与えていきたい、と結んだ。

 

漁業の現場から社員食堂、居酒屋からIT企業まで

彰式では2部門のファイナリスト8組を集めてチャンピオン受賞者の発表を行った。

イニシアチブ部門のファイナリスト4組が取り組むプロジェクトは、東京湾のスズキ漁での日本初のFIP(漁業改善プロジェクト)、和食店として初のMSC・ASC認証品取り扱い、日本初の社員食堂へのサステナブル・シーフードの継続導入、未利用魚種の提供など居酒屋からの継続可能な漁業の推進。

コラボレーション部門には、インドネシアでのエビ養殖業改善プロジェクト、日本初の社員食堂へのBAP認証水産物導入・普及活動、ポイントカードと自治体、生産者、シェフ、消費者の連携で地域の魚を活かす六次産業化の試み、そして次世代トレーサビリティシステムの構築などのプロジェクトが並んだ。**

ファイナリストが1組ずつ呼ばれて登壇し、ステージ上にずらりと並ぶ中、豊洲マグロ仲卸「鈴与」3代目店主の生田與克氏がアワードのプレゼンターをつとめた。長年サステナブル・シーフード推進に取り組んできて「いつか功労者を表彰するようなアワードを開催できたら」という思いが実現して感無量、「本当はみなさんにさしあげたい」という生田氏から、チャンピオンが発表された。

 

現在だけでなく、今後にさらなる期待を寄せて

イニシアチブ部門の第1回チャンピオンは、社員食堂へのサステナブル・シーフード継続導入に取り組むパナソニック(パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部)。業界の先駆けである点、給食サービス業界にCoC認証取得の流れを作った点が評価された。大企業が抱える従業員という力をうまく活用し、漁業と直接関係ない企業でありながら、他企業へもノウハウを伝授するなど、積極的に活動を広げる姿勢も評価のポイントとなった。

コラボレーション部門では2組がチャンピオンとして選出された。ひとつはインドネシア・スラウェシ島のエビ養殖業改善プロジェクト(日本生活協同組合連合会、WWFジャパン、BOMAR社、WWFインドネシア)。養殖現場、環境NPO、流通企業が手を取り合い、消費者のサポートを得た包括的なプロジェクトである点が高く評価され、「食のサプライチェーン構築のお手本」と称賛された。

もうひとつは、日本初の次世代トレーサビリティシステム構築プロジェクト(海光物産株式会社、株式会社大傳丸、有限会社中仙丸、株式会社ライトハウス)。漁業の現場に根ざしたシステムづくり、また今後の日本の漁業に必須となる漁獲証明と資源調査に貢献する取り組みである点が高く評価された。技術的にも費用的にも困難が大きい中、志ある漁業者と先端ITのコラボレーションによりそれを乗り越え、導入が広がり始めている点に期待が寄せられる。

壇上で受賞の喜びさめやらぬまま、ひとことずつ求められたチャンピオン受賞者たちがそれぞれ、共に活動してきた仲間への感謝とともに、自分たちの活動がまだ道半ばであること、今後の期待と課題が大きい、と異口同音に語ったのが印象的だった。

 


*審査員(敬称略・順不同):

河口真理子(株式会社大和総研)、井田徹治(共同通信社)、藤田香(日経ESG)、長谷川拓也(一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン、ヤフー株式会社))、山口真奈美(株式会社FEM、一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会)、泉澤宏(網代漁業株式会社)、佐々木ひろこ(フードジャーナリスト、一般社団法人Chefs for the Blue)、花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー)

**ファイナリストおよびジャパン・サステナブルシーフード・アワードについて詳細は、こちらをご参照ください

https://sustainableseafoodnow.com/2019/award/

主催:ジャパン・サステナブルシーフード・アワード実行委員会(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)、 MSC(海洋管理協議会)日本事務所、ASC(水産養殖管理協議会)ジャパン、セイラーズフォーザシー日本支局、株式会社シーフードレガシー

事務局:株式会社シーフードレガシー

後援:東京サステナブルシーフード・シンポジウム、SeaWeb


 

 

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