TSSS2019

B-6 トップシェフが求める国産のサステナブル・シーフード

B-6 トップシェフが求める国産のサステナブル・シーフード

料理人が「買い支える」ことの大切さ

B会場の最終セッションのテーマは、「料理界から見たサステナブル・シーフードのあり方」。『きじま』グループの杵島弘晃氏と、「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のメンバーによるパネルディスカッションが行われた。

「シェフス・フォー・ザ・ブルー」は、サステナブル・シーフードの普及を目的として創設された、東京のトップシェフとジャーナリストからなるグループである。このグループが誕生したのは3年前。日本の魚が激減していることを知ったフードライターの佐々木ひろこ氏が、知人のシェフに声をかけ、勉強会を始めたのがきっかけだ。現在は、メディアにも登場する有名シェフ約30名がメンバーに名を連ね、イベントなどを通じて啓発活動を行っている。

本セッションの冒頭では、まず杵島弘晃氏が登壇。2019年に、『きじま』が和食店としては日本で初めて、MSC・ASC認証水産物の提供を始めた経緯を語った。「食を通じて持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」という理念の下、「美味しい和食と豊かな海を、未来もずっと。」というスローガンを掲げ、認証を取得したエビやカツオ、メバチマグロを食材として使用。ただし、サステナブル・シーフードの仕入れにあたっては様々な壁があるのも事実、と杵島氏は言う。

例えば、ある魚がサステナブルな認証を取得したと聞いて漁業者に連絡をとると、(認証水産物の)生簀の数は全体のごく一部で、「売り先がすでに決まっている」ことも少なくないという。こうした問題を克服するためには、「養殖業者がサステナブルな漁業を始めようと決断した時点で、弊社から働きかけ、買い支えるなどして、もっと積極的に関わっていく必要がある」と杵島氏。そして、「持続可能な漁業をしたいと考えている漁業者の皆さん、一緒に持続可能な共同体を作りましょう」と会場に呼びかけた。

 

 

国産の良魚が姿を消しつつあるという危機感

後半は、杵島氏に続いて、「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のメンバーである『慈華』の田村亮介氏と、『The Burn』の米澤文雄氏も登壇。パネルディスカッションが行われた。

佐々木氏から、「日本の魚介類が使えなくなる、という危機感はあるか」と問われると、杵島氏は「実際に魚が減っているという感覚はある。たった4、5年前と比べても、魚体の小型化も顕著で、脂ののりも悪くなっている」と回答。中国料理で20年のキャリアを持つ田村氏も、「先日訪れた江差(えさし)でも、『今はイカも他の魚も獲れないから、ナマコしかない。そのナマコ漁も、密漁との戦いで大変な思いをしながらやっている』という話だった」と、日本の漁業の深刻な状況を語った。

日本の魚が姿を消しつつある中、料理界において、食材としての魚介類が占めるプライオリティは変わりつつあるのか。ニューヨークの三つ星店での副料理長を務めた経験もある米澤氏は、「日本では和洋中問わず、コースの半分を魚介類が占めている。なぜなら、世界も含めて他店との差別化を考えた時、魚介類は非常に重要なコンテンツであるからだ」と指摘する。現在、日本で食べられる魚は約400種。だが、「魚が減って、国産のよい魚がなくなりつつある。そのことに、業界として危機感を感じているのは事実」と米澤氏は言う。

現在、インバウンド誘客が国策として進められる中、日本の食材の代名詞ともいえる魚が料理店から消えれば、日本経済に与える影響は測り知れない。こうした危機に対して、料理界は何ができるのか。「サステナブル・シーフードを使いたくても、MSC・ASC認証がある国産の魚はなきに等しい。暗闇の中で手探りしているような状況だ」と田村氏。これに対して、米澤氏も「国産のMSC・ASCの食材を増やし、信頼できる漁業者から買える仕組みを作ることができれば、海を助けて豊かにすることができるのではないか」と見解を述べた。

 

 

啓発・教育活動により海の問題を伝えていきたい

さらに、田村氏は、料理人が自ら啓発活動を行うことの大切さを指摘。「日々レストランでお客様に接している我々だからこそ、料理を通じて海の環境問題を伝える力はあるのではないか」。また、専門学校や大学、料理教室での教育活動を通じて、サステナブル・シーフードに対する理解が広がっていくことへの期待を語った。

司会を務めた佐々木氏は、「日本には伝統漁業を支える小さな沿岸漁業の方がたくさんおられる。その方々を、私たちが支えることもできるのではないか」とコメント。その方法を考えながら今後も活動を続けたい、とした上で、「漁師には魚を獲る権利があり、料理人には魚を使う権利があり、私たちには食べる権利がある。権利には責任もともなう以上、『魚を守る』という責任をどう果たしていくのか、1人ひとりが考える必要がある」と、最後に提言した。

FACILITATOR / SPEAKER

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