日本は水産物の半分を輸入している。特にサケとエビの多くは海外の養殖品である。サケ・エビの認証例も多いBAP認証の運営者と利用者が集い、持続可能な養殖業をどのように日本で広げていくか話し合った。
BAP(Best Aquaculture Practices)認証を運営する世界養殖連盟(GAA)のハート氏は、日本の輸入水産物の筆頭であるチリのサーモンや東南アジアのエビにBAP認証の取得が浸透していると紹介した。BAP認証の主要な消費マーケットは北米だが、ここ数年で中国を中心としたアジアの消費マーケットも拡大している。日本でもここ1年で市場との連携を深め、認知度を高めている。BAP認証を得た生産者数は世界全体で2018年に前年より30%近く伸びた。ハート氏は、「BAP認証の運営主体は業界の協会だからビジネスを理解している」と強調した。また、抜き打ちのサンプリングテストを匿名で実施できることなど、BAP認証の特徴を解説した。
西洋フード・コンパスグループは、日本で約1600カ所の社員食堂、高齢者施設や医療施設の食事の提供や、パーキングエリア等の受託運営を行っており、責任ある調達や地域社会への貢献のため、サステナブル・シーフードを扱っている。2018年には、これからは水産養殖物が重要と考え、日立製作所の食堂で日本初のBAP認証水産物の提供を始めた。秋田氏は、日本で導入事例が少ないBAP認証を選んだ理由として、GSSIに加え、食の安全性に関するGFSI(世界食品安全イニシアチブ)に承認されていること、ロゴ使用や監査の費用負担が不要でユーザーの障壁が低く拡大性が高いこと、などを挙げた。
BAP認証のロゴには、加工場認証で1つ星、加工場と養殖場の認証で2つ星、飼料工場や孵化場まで認証されれば3つ星、4つ星とランクがある。同グループは今後、バラマンディやトラウトやアトランティックサーモンのBAP認証品を新規に扱い、既存のバナメイエビやパンガシウスは星の数がより多いBAP認証に置き換えていく。秋田氏は、「イベント的に使うのではなく、当たり前にサステナブル・シーフードを食べていただく状態を創出する。大切なのは、おいしいという食体験。次も食べたい、あの人にも食べてもらいたいという連鎖がサステナビリティにつながる」と語った。
熱帯にすむスズキ目のバラマンディは、過去10年で急速に北米での知名度を上げた。その立役者がゴールドマン氏である。世界の天然漁業のピークは30年も前に過ぎているが、人口の激増で動物タンパク質の供給は逼迫(ひっぱく)している。魚は変温動物で代謝にあまりエネルギーを使わず、水中生活なので骨格維持のための質量も必要ない。つまり、畜産以上の変換効率で飼料からタンパク質を生成できる。そこでゴールドマン氏は、それまでの養殖魚のイメージを払拭しグローバルな嗜好に合う「養殖に適した新しい魚種」を探した。そして、油脂の含有分量が非常に多く調理しやすいバラマンディを見出し、養殖会社を立ち上げて世界最大の生産者となった。養殖の推進は天然水産物の「節約」にもなる。ゴールドマン氏は、「今の地球は岐路に立たされている。それに気付いた若者や意識の高い消費者は、単なるおいしさや費用対効果や便利さ以上のことを求めている。サステナブル・シーフードの重要な推進力である彼らの価値観や課題意識に応えることは、大きな機会だ」と述べた。
ザ・スコティッシュ・サーモン・カンパニーは、スコットランドの約60カ所の養殖場で3万トン強の生鮮アトランティックサーモンを生産し、その70%を世界26カ国に輸出している。主に欧米向けで、アジアでは2年前から本格的なマーケティングを開始した。日本市場は生鮮サーモンを約3万7000トン輸入しているが、約90%はノルウェーサーモンである。同社は、「ストレスがかからないよう3年かけて育てたサケのおいしさ」以上に、「発祥地であるスコットランドという国自体をプライドと情熱を持ってブランド化」しており、「量販店と組んでパッケージにステッカーを貼ることが最も効果的」と川崎氏は述べた。サステナビリティに関して市場は未成熟で、まだ常に説明が必要だが、川崎氏は、「環境重視でないと会社は持続的成長が見込めない。サステナビリティや環境の重要性を地道にアピールしていきたい」と語った。
最後のディスカッションでは、水産物調達に10年以上携わる秋田氏が、「例年通りの調達ができなくなってきている。資源は危機的だが、それ自体を知らない消費者もいるため、取り組みの前提の浸透を図ることがポイントだ。日本ではSDGsやESG投資の面でも2030年が重要」と述べた。ゴールドマン氏は、「日本は短期間でここまできた。東京五輪後の継承は、リーダーシップとビジョンの問題」と語り、今後さらにシェフの発信力やSNS等も活用して一般家庭の食卓も巻き込んでサステナブル・シーフードを普及していく必要性を一同で確認し合った。
スティーブ・ハート
ファシリテーター
世界養殖連盟(GAA) アジアバイスプレジデント
水産養殖栄養学の分野で2006年にパデュー大学の博士号を取得。学位取得後、同氏はインディアナ州大豆協会に水産養殖部門長として勤務し、2011年には大豆水産養殖協会の事務局長に指名され、提携グループと密接に連携して水産養殖研究や戦略的アプローチ立案を行う。
2015年に、GAA(世界養殖連盟)に取締役副社長として加入。同氏の第一の責務は、アジアにおけるGAA活動の指揮であり、BAP認証プログラムを市場に普及させる活動に取り組んでいる。また同氏は、動物福祉協定の更新および改善に焦点を当てた取り組みについても指揮を執っており、水産養殖の利害関係者に影響を及ぼす新たな課題を調査し、GAAの指定代理人と共同で新たな問題に取り組み、他の関連グループとの活動を広げ、GAAのコミュニケーション手段のためのコンテンツを作成するなどの活動を展開。2019年初めには、米国内の水産物消費の増加を使命とする組織、水産栄養学パートナーシップの理事長に指名される。
秋田 浩稔
スピーカー
西洋フード・コンパスグループ株式会社 グループパーチェシング&マーケティング部門 購買部 スペシャリスト
SOZAI(そうざい)企業にて、主に水産物にかかわる製造、企画開発、調達に携わる。
2013年よりコントラクトサービスの西洋フード・コンパスグループ㈱において、
社員食堂、ヘルスケア業態で提供されるメニューの水産物を中心とした食材調達を担当。
10年以上にわたって水産物の調達業務に携わり、極端な漁獲量の変動が度々起きている現状を目の当たりにしてきている中、
2017年よりSustainable Seafoodの取り組みを開始。
コントラクトサービス企業として、主に社員食堂へのSustainable Seafoodの導入を通じて、お客様と理念、価値観、想いの具現化に取り組んでいます。
小さな力かもしれませんが、私たちの活動によって、皆さんがSustainabilityについて考えるきっかけや、世の中の動きが変わっていくきっかけになればいいなと思います。
鹿児島大学大学院水産学研究科修了(水産学修士)
日本さかな検定1級
ジョシュ・ゴールドマン
スピーカー
オーストラリス アクアカルチャー 代表取締役社長/共同創設者
持続可能な海産物養殖の分野においては国際的に有名なリーダー。
30年もの歳月をかけ、水産養殖の分野で最も画期的なアイデアを複数考案し、大学の学生寮に太陽熱温室を設置したのをきっかけに、陸封型水産養殖の分野でグローバルに利用される中核的イノベーションの数々を開発。
Bioshelters, Incの共同創業者の1人であり、同社は世界初の商業アクアポニックス式農場兼養殖場の1つで、アメリカ市場にティラピアを広める上で一役を担う。2005年に、バラマンディを大量生産し市場を創出するためオーストラリス・アクアカルチャーを創業。
2018年には「よりグリーンな牧場づくり(Greener Grazing)」という名の気候変動に対処する野心的プロジェクトの陣頭指揮を執る。同プロジェクトは、紅藻の養殖を世界で初めて商業化に成功した。
水の再利用や低炭素輸送技術に関する特許を多数取得しており、Seafood Choices Allianceよりサステイナブルな養殖の発展に貢献したとして「シーフード・チャンピオン」の受賞する。
川崎 宏
スピーカー
ザ・スコティッシュ・サーモン・カンパニー 日本代表
水産業界での経験は25年こえ、2017年よりThe Scotish Salmon Company日本代表の職務へ着任する。