TSSS2019

C-4 FIP/AIPに取り組む先行事例と体験談から学ぶ

C-4 FIP/AIPに取り組む先行事例と体験談から学ぶ

MSC・ASC認証例がまだ限られる日本で大きな役割を果たしているのが、漁業改善プロジェクト(FIP)と養殖業改善プロジェクト(AIP)である。その先駆的実践者4名が来場し、事例紹介と試食を提供した。

 

 

船上の漁獲管理をデジタル化

FIP/AIPは漁業/養殖業を一歩ずつ改善していく過程をプロジェクト化したもので、世界の漁獲量の約10%がFIP/AIPを実施する漁業によるものである。

東京湾でスズキ漁を営む海光物産は、東京五輪への出荷を目指してFIPを立ち上げた。混獲対策や「瞬〆」加工などで「価値のない魚を獲らず獲った魚の価値をさらに高めるバリューコントロール」を加速。「貯金がいくらか分からないまま高い買い物はできないのと同じ」と理解して科学的な資源管理に着手し、タブレット端末を船に持ち込み「大変だった手書きでの転記」をデジタル化して操業データを蓄積した。その次世代トレーサビリティーシステムは第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワードのコラボレーション部門大賞に輝いた。大野氏は、「認証は販売目的のツールではなく、本来は日本の水産物の持続性を高めるためのものであると同時に、漁業者自身を守るためのもの。漁業資源は大切な共有財産だから、行政や消費者を含め、皆が認識を深めることが重要だ」と語った。FIPによって同社は2年間でMSC取得レベルの6割まで達成しているが、周囲の漁業者や行政を巻き込むことが課題となっている。

 

 

樽流し漁は技術が必要で面白い

北海道苫前町の小笠原氏は、親から引き継いだ伝統的な「樽流し漁」を紹介した。「いさり」と呼ぶ手作りの漁具を付けた樽を潮に流してタコを獲る漁で、小さな船で燃料代も1日5000円以下で済む。混獲がない上に最大40kgサイズのミズダコがかかる「技術が必要で面白い」漁法だが、それを消費者に直接伝えられる機会は少ない。生まれ育った大好きな漁村の過疎化も進んでいる。そこで小笠原氏は、タコ資源と漁村コミュニティーを守る活動を開始。2019年4月に町内27人の漁師が、水産試験場と漁協の協力を得てFIPを立ち上げた。現在は漁獲制限ルールを話し合っている。「苫前にできれば、おそらく、どこの漁村でも可能だ。思いを共有する方々と協力してFIPでタコ樽流し漁と苫前町をブランド化し、全国の沿岸小規模漁業がプライドを持って仕事ができる未来に貢献したい」と述べた。

 

 

持続可能な延縄漁でFIPを進める

和歌山県の那智勝浦で仲卸を営むヤマサ脇口水産は、マグロ減少に危機感を抱き、2013年に調達方針を発表。MSC取得を目指し、2017年からビンチョウマグロのFIPに取り組んでいる。効率のよい巻き網で獲ったマグロを扱えば収益は上がるが、資源への負荷を考えて「鉄の意志」で「食いしん坊しか餌を食わず100本の針の6本にかかれば良いほう」の延縄漁のマグロのみ扱う。岡本氏は、「商売に経済性は不可欠で、漁師さんが儲かって次世代につなげていける形にするには、魚価を上げる必要がある。サステナブルを謳う小売が、一方で育つ前のマグロを売るようなダブルスタンダードをやっていては駄目。日本の水産業界には本気のパラダイムシフトが必要だ」と熱く語った。FIPの成果については、自社ブランドの「もちビンチョウ」が、西友から結婚式場、ヤフーやグーグルの社員食堂にまで広がったと紹介した。

 

 

自社開発の機器でモニタリング

宮城県女川町で水産加工業を営むマルキンは、ギンザケ養殖業者でもあり、生産から出荷まで社内で完結してトレーサビリティーを確保している。先々代が世界のサケ養殖業の先駆者である同社も、近年は輸入サケとの価格競争に巻き込まれ、輸出を検討し始めた。そしてASC認証の必要性を知り、2017年にAIPを立ち上げた。現在、飼料のトレーサビリティーや工場の二酸化炭素排出量まで問われるASC認証の基準に沿って、改善を積み上げている。養殖場の溶存酸素量など毎日必要な測定には、遠隔監視できる機器を自己資金でIT企業等と開発し、3台目で継続的なモニタリングが可能となった。前年のTSSSでの発表を機に同業他社ともつながり、生産者の作業効率を上げる工夫を一緒に進めている。鈴木氏は、「FIPやAIPは過程である。流通小売の協力も得て、消費者にも、過程を認めて評価していただきたい」と述べた。

ファシリテーターを務めたシーフードレガシーの村上は、「FIPやAIPはMSCやASCの二番手ではない。認証基準に向けて改善を行い、流通・漁業者が皆で一丸となって持続可能性の向上を応援する仕組みだ。さらに応援いただければ浜はもっと元気になり認証数も増える」とまとめた。

 

 

試食付きの商談コーナー

後半は会場を移し、登壇者たちが資料や、自慢の海産物を使った軽食メニューを提供し、個別に実践者の詳しい話を聴ける時間とした。各所でサステナブル・シーフードを味わいつつ立ち止まって質問する来場者の姿が見られた。

試食会は入れ替え制で、待機中の来場者にはシーフードレガシーの松井大輔が、国内外の水産業界の動向などを解説。「全海洋生物23万種のうち4万種近くが生息するホットスポットでもある日本の海」を、実際に水産ビジネスの発展につなげるための改善案などを語った。

 

 

FACILITATOR / SPEAKER

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