TSSS2019

A-3 グーグルマップで日本周辺海域のリスクを可視化

A-3 グーグルマップで日本周辺海域のリスクを可視化

IUU(違法・無報告・無規制)漁業、破壊的漁業慣行、乱獲、そして、人権侵害は、すべて一体となって、漁業の持続可能性および社会からの承認を地球規模で脅かしている。まず、ウーロンゴン大学准教授クエンティン・ハンチ氏が、「テクノロジーを活用して透明性・トレーサビリティを担保し、漁業の信頼回復を図る」という全体テーマを提示した。

 

 

船舶監視システムで透明性を確保する

Global Fishery Watch(GFW)のトニー・ロング氏は、操業中の漁船が位置情報を共有する海洋地図を示しながら、自動船舶識別装置AIS(Automatic Identification System)、船舶追跡システムVMS (Vessel Monitoring System)、赤外線熱画像による船舶監視システムなどを紹介し、AISデータの不正操作への対策、VMSとAISのデータを重ね合わせる解析手法、洋上転載のモニタリングの難しさなどを説明した。現状、国や司法管轄ごとにシステムが分断されており、グローバルなトラッキングには改善が必要である。GFWは、ピュー・チャリタブル・トラスト(ピュー財団)とも協力してオープンソースのプラットフォームを構築し、洋上転載の問題にも対応する考えである。

ハンチ氏からの「2017年からインドネシアがVMSデータ共有に踏み切ったきっかけは?」という質問に対し、ロング氏は「違法行為を報告するための確実なモニタリングのためだ」と答えた。パナマ、チリなど、データ共有に踏み切る国が続いている。

漁船での奴隷労働など人権侵害の防止のためにも、テクノロジーの活用による船舶の追跡、監視は有効である。「透明性の確保は地球規模での管理を達成する費用対効果の高い方法で、コンプライアンスが全体として改善されるので、すべての国にとって有益だ」とロング氏は述べた。

 

 

国際漁業ガバナンスの向上の重要性

ピュー財団のアマンダ・ニクソン氏は、石けんを買う場面を例に挙げ、「店頭に並ぶ商品は規制を守っていると思うのが普通。水産物にも適切な規制が必要」と、国際漁業ガバナンスの重要性を訴えた。ガバナンスが向上すれば市場の持続可能性実現にもつながり、消費者やバイヤーからの需要も高まる。ピュー財団は、守るべき適切なルールと罰則を設けることによる国際漁業ガバナンスの向上を重視し、地域漁業管理機関(RFMO)など、ガバナンスに関する業界代表者の議論を定期的にフォローしている。

ハンチ氏から「RFMOでは加盟各国の利害関係があり合意形成が難しいのでは?」と問われ、ニクソン氏は「確かに年に一度の会議ですべてを決めるのは難しいが、漁獲に関する戦略を策定し実行することが持続可能な漁業のためには重要である」と答えた。

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)によると、2016年にWCPFCの認可を受けた運搬船のうちAISで追跡可能だったのは半数以下であり、AISのアルゴリズムによると、洋上転載の報告数に含まれていなかった日本沖の国際水域でも多数の転載活動が行われた可能性があるという。

違法な洋上転載を検知し、IUU漁業に関連のある水産物の輸送を阻止し市場で流通させないために、サプライチェーンの透明性を向上させる必要がある。「GFWと同様にテクノロジーを使ってデータを共有し、違法漁船が操業できないようにしていきたい。」と語ったニクソン氏は、さらに、「国際ガバナンスの議論の場では、業界代表者の反対に遭うこともしばしばあるが、一方で、多くの市場関係者がサプライチェーンに透明性を創出するためのプログラムを導入している。情報提供やガバナンスのメカニズムを発展させることは持続可能な漁業に直接つながる。市場からのさらなるアクションが重要である。」と市場関係者への期待を示した。

 

 

持続可能な漁業のために情報を共有

続いて、水産研究・教育機構の大関芳沖氏が、日本周辺海域における外国漁船の操業実態の研究調査を紹介した。集魚灯など夜間の光点情報の抽出と分析により漁船の操業位置が把握でき、これとAISに含まれる漁船ID、進路、船速等の情報と突き合わせると、どこの国の漁船が何を獲っているのか、ある程度推測できるという。この手法で東シナ海での中国船のサバ漁、日本海での北朝鮮のイカ漁などの操業の把握に努め、日本海では光点図に加え宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力を得た解析により、中国の二艘曳き網漁船の操業が判明した。

北西太平洋では中国のマサバ漁船の漁獲量の推定を行ったが、3~6カ月間滞在し漁獲を洋上転載して操業を続ける漁船の漁獲量を正確に推定するには、転載の頻度を把握する必要がある。2018年にはGFWとの情報共有を開始。同機構は新たな体制で北西太平洋での洋上転載の把握にも取り組む。「資源評価制度の向上を図り、資源の持続的利用のために研究を進めていく」と大関氏は述べた。

会場から「データの公開についての障壁は?」、「このようなテクノロジーは10年後にはどうなるのか?」などの質問が出され、大関氏は「まだ研究は始まったばかり」とする一方、「各国の漁業者と個別に話すと資源の持続可能性にサポーティブ。そのような考え方が各国代表団を動かせば、RFMOなどでも持続可能な漁業に向けた動きが急速に進むのではないか」と述べてセッションを締めくくった。

 

 

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