アウトドア衣料品の製造販売を手がける米・パタゴニア社。「山に登り海に入るアウトドアの事業を通じて環境問題に向き合ってきた私共の取り組みが水産関連のみなさまにもヒントになれば」と同社日本支社で環境・社会部門シニアディレクターを務める佐藤潤一氏は語った。
枯葉剤が大量に使用される綿花栽培の現実から、1990年代にパタゴニアは同社製品の素材を100%オーガニックコットンに転換。また、1,100人もの縫製工が命を落とした2013年のバングラデシュでの縫製工場崩壊事故をきっかけに進んだ業界全体の取り組みの中、同社製品の8割がフェアトレード認証を得ている。
しかし、サプライチェーンや労働環境に配慮しても、「アパレル業界の根本的な問題はそもそも作り過ぎていること」と佐藤氏は言う。店頭の衣料品のうち半分はそのまま廃棄あるいはリサイクルされていると言われる。そのようなビジネスモデルではなく同社では、「1人に多くの服を買ってもらうのではなく、多くの人々に1着の服を大切に着てもらう」ために、過去には過剰購入を戒める新聞広告を出し、現在ではウェアの修理にも力を入れる。
温室効果ガスの8%を排出しているのが、靴を含むアパレル業界だと言われる。地球温暖化への危機感から、パタゴニアは昨年、ミッション・ステートメントを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に変更した。「もはや持続可能性を目指すだけではなく、ビジネスをすればするほど環境が良くならない限り地球環境を守れない」との考えから「環境再生型」をテーマに食品ビジネスも始め、根が長い多年草小麦を使用したビール製造で炭素の地中固定などの成果を上げる。今年9月には国連で「地球大賞」を受賞した。
ビジネスを通じた解決策を提案する中で第一次産業に注目する。アウトドアで培った素材の耐久性、防水性、軽さを集約し地球環境に配慮した素材を用いた漁師合羽の販売を開始し、「環境に配慮した漁業者の方々にぜひ着ていただきたい。一緒にビジネスを行うことが地球環境を救うことにつながる」と佐藤氏は締めくくった。
佐藤 潤一
スピーカー
パタゴニア日本支社 環境・社会部門シニアディレクター
米国コロラド州のフォートルイス大学に在学中、メキシコ北部の先住民族タラウマラ人との生活経験から環境・社会問題に関心を持ち、帰国後は国際環境NGO職員になる。森林・海洋保護、ごみ問題、エネルギー問題などの環境課題の解決に取り組み、2010年に同団体の事務局長に就任。環境問題の解決には企業が変わることの重要性を感じ、2016年にビジネスを手段として環境問題の解決を目指すパタゴニアに入社。現在は、パタゴニア日本支社の環境・社会問題の取り組み全体を統括し、自社の環境影響の低減だけではなく、他企業や業界を巻き込んだ責任のある気候危機の緩和策の導入に力を入れている。