TSSS2019

P-9 小売の現場からサプライヤーがつなぐ動きで漁業が変わる

P-9 小売の現場からサプライヤーがつなぐ動きで漁業が変わる

魚が最終的に消費者の口に入る、その直前のバトンを握るのは小売業だ。このトークセッションは、小売の現場へ流通をつなぐ中でのイニシアチブの取り組みがテーマ。パネリストには日本の小売業界で独自の存在感を持つ生協から、日本生活協組合連合会 商品本部・本部長スタッフ(サステナビリティ戦略担当)松本哲氏と、世界で小売と漁業の現場をつなぎ、小売からサプライチェーンをさかのぼって漁業改善を推進してきたNPO、サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップ(以下SFP)の代表取締役社長、創設者のジム・キャノン氏が登壇。司会はシーフードレガシーの花岡和佳男がつとめた。

 

持続可能な水産資源の確保は「それがビジネスを支え、収益につながるから」

一般消費者にとって、サステナブル・シーフードが目に入りやすいのは小売現場での取り組みだ。キャノン氏が「私が説明するよりも、まず私たちのパートナーの話を聞いてください」と上映したのは、世界を代表する企業のビジネス現場の声を収録したビデオだった。

1人目はマクドナルドのサステナビリティ担当バイスプレジデント。「最初にジム(キャノン氏)と組んで持続可能な漁業改善に取り組んだのはもともと、ビジネスのためだ」と語る。フィレオフィッシュの販売を拡大したいのに、具材に使う白身魚が減少していると知り「売上を伸ばすには調達を確保する必要があった。それもまとまった量を、適切な価格で」。

安定供給と低価格の目的は今も大きいが、その後、より大きな意味に気づいたと言う。サステナブル調達への取り組みが知られることによって、顧客の信頼が得られ、ブランドロイヤリティとしてビジネスに大きな価値をもたらすことだ。

続いて画面に登場したのは、ウォルマート傘下のイギリスの大手スーパー、ASDAのエシカル・サステナブル調達部長。「消費者が大手スーパーや大手ブランドを選ぶのは、ここをなら間違いないだろうと信頼するからです」と語る。スーパーに行って、商品がサステナブルかどうかいちいち自分で考えるようなことはせず、その店にあればどれもちゃんとした商品だろうと考える。だから自分たちはその期待に応えなければならない。

そしてそのための取り組みは、いかに大企業でも1社ではできず、世界に広がるパートナーと組むことで大きな変化をもたらせる、とSFPとの協力関係を評価した。

 

サプライヤー発の連携で、FIPによって世界の漁業の現場を大きく変えたい

ビデオに出てきたような企業とのパートナーシップは、サステナブル・シーフードに向けたFIP(漁業改善プロジェクト)を推進する自分たちにとっても大きな意味がある、とキャノン氏。

つまり企業規模が大きいことで、サプライヤーに対して働きかける力となる。また価格重視のビジネスであることから、大量かつ適正な価格での供給が求められる。そして顧客の信頼を得るためには、それが単発でなく継続される必要がある。だからこうした企業が動きだすことで、大量かつ継続的な「改善された漁業」が必要となる。これに応えるのがFIP(漁業改善プロジェクト)であり、そうした小売業と漁業現場をつなぐのが自分たちの役割だ、と述べた。

さらに実際に漁業改善へ向けた戦略で要となるのは、調達に対応するサプライヤーだ、とキャノン氏。それもかつてのように「よい(サステナブルな)魚を売ってくれるサプライヤーなら、どこでもよい」というのではなく、サプライヤー自身に積極的な役割を担ってもらう必要があると言う。

以前はサステナブルな水産物を求める小売業者は、限られた「持続可能なものを提供するサプライヤー」から調達しようとした。それでも成果は上げられるが、大きな動きにはつながらない。いくら大企業でも、単独では大規模で継続的なサステナビリティは実現できないのだ。だからサプライヤーが漁業者、NGO、各地域の当局、そして同業他社とも協働して、サステナビリティを主導できるようになるべきだ、と。

キャノン氏の率いるSFPでは長年、FIPへの期待を洗い出し、FIPをより効果的なものにしていくために活動してきた。現在、2020年に向けて、世界規模でFIPがより効果的に力を発揮することをめざし「ターゲット75」、すなわち指定魚種のうち75%で漁業改善が進んでいる状態を目標として掲げている。

実際には、指定魚種のうち「持続可能」「持続可能な状態に向けて改善中」の合計量は、まだ目標値のおよそ半分。これを推進するには日本の力が不可欠、「世界のすべての漁業を持続可能にしていくために、ぜひ参画してほしい」と訴えた。

 

消費者運動からSDGs取り組みまで、生協の歩みと社会との連携

日本にはさまざまな生活協同組合があり、全国の生協組合員の総数は2,900万人に上る。個別の単位生協消費者が組合員として加入して利用し、日本生協連は単位生協に向けて事業を展開する関係、と松本氏が説明した。

日本生協連では事業のひとつとしてオリジナルの「コープ商品」を開発し、全国の生協へ卸している。この「コープ商品」はもともと、環境問題と大きな関わりを持ってきた。

古くは1960年代の水環境に配慮した洗剤開発にはじまり、環境問題が社会的にクローズアップされた90年代からは、牛乳パックをリサイクルしたトイレットペーパーなどをいち早く開発。2000年代までは、こうした商品に生協独自のエコマークをつけて販売してきた。

2010年に策定された「2020年に向けた新たな環境政策」では、水産品ならMSC、ASCなど、社会的認知された外部の第三者認証を積極的に取り入れる方針に転じた。

生協に特徴的な活動として、組合員コミュニケーションの重視がある。日本生協連でも「コープのエシカル」ブックなどの学習資料、各種の動画、スライドセットなどのツールを作成し、各生協が組合員の集まりなどで活用できるよう支援している。また、生協の大きな役割として「産地と消費者を結ぶ」ことがあるが、さらに産地と協力してサステナビリティ向上にも取り組んでいる。

MSC・ASC認証品の導入は、すでに取り組んでいる商品の素材を認証品に切り替えることを中心に、積極的に進めている。その結果、2018年には78点だったMSC・ASC認証品が、2019年には100点を超えるまで伸びている。「2020年までに水産部門コープ商品供給高の20%以上」の目標に対して、2018には19.3%が認証品と、あと一歩まで来ている。組合員のMSC認証への認知度(知っている・買ったことがある人)はわずかずつだが着実に伸び、2018年の調査では29.7%。組合員コミュニケーション活動の他、よく利用されている商品の原材料に認証品を取り入れたことも認知につながっていると言う。

また2018年の7月からは、インドネシアのスラウェシ島で、エビ養殖のASC認証に向けたプロジェクトにも着手している。日本生協連と現地企業、WWFジャパン、WWFインドネシアの4者による取り組みだ。

 

クローズアップされるサプライヤーの役割、変わるNGOとの関係

二人の登壇者は異なる立場にありながら、サプライヤーの役割と、パートナーシップの重要性という話題は共通している。発表を受けて司会からパートナーシップの事例を尋ねられ、キャノン氏はサプライチェーンの協力によって始まったFIPの例を挙げた。

2008~2010年頃にアメリカ、カナダ、日本の輸入業者が働きかけ、ロシアのウラジオストクのスケトウダラ漁協との連携によって、バレンツ海とベーリング海で2011年までにMSC認証取得をめざすFIPを立ち上げた。同漁協の割当て漁獲量のうち65%を獲る漁業者と協働し、アラスカでの事例を参考に、漁期のピークに力を入れたIUU漁業排除などの取り組みを行った。これはサプライヤー発で世界規模の動きとして、大きな成功を収めた例だと言う。

こうした連携の中で、今や大きな役割を担うのが、キャノン氏のSFPのようなNGOだ。日本でのNGOとの関係、NGOの活用のしかたに話題が及ぶと、生協連の松本氏へ質問が飛んだ。

「生協自体がもともと消費者運動から起きているので、運動からスタートして成果につなげる形への共感はあるNGOの主張と私達の事業との距離はあり、そのまま受け入れることは難しいが、NGOの情報や知見は役立っており、一致できる点は協力していきたい」と松本氏。実際にインドネシアで協働するWWFからも刺激を受けていると言う。

これに「ビジネスも、NGOも、両方とも変化している。協力する中で変わってきた」とキャノン氏。最初の頃は互いに不信感もあったが、一緒に作業していく中で共感するところがみつかる、と言う。NGOもビジネスとのつきあい方を理解し、ビジネスもNGOが自分たちを攻撃するだけのものではないとわかってきた。「NGOからもっともな意見が出てくれば、今はビジネスも聞く耳を持つ」とキャノン氏。

欧米に比べ、日本では企業とNGOの関係がまだ未発達だが、「新しい協力関係によるイニシアチブは増え、今まさに成長の加速を感じている」と司会が結んだ。

 

 

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