ここでは、サプライヤー円卓会議で持続可能な漁業を目指す取り組みについて、マグロをテーマに議論した。参加者らは、MSC/ASC認証品や有機JAS野菜使用の「きしま」のサステナブル弁当を味わいながら聴き入った。
国際環境NGO「サステナブル・フィシャリーズ・パートナーシップ(SFP)」創設者のキャノン氏は、ビジネスエンゲージメントをリードするSFPディレクターのキャサリン・ノーバック氏を紹介し、マイクを渡した。
SFPは2017年後半に直近の目標として「ターゲット75」を掲げた。ターゲット75は、2020年までに世界の水産物の75%を持続可能な認証または漁業・養殖改善プロジェクト(FIP/AIP)による生産にすることを目指している。開始当初のMSC認証は13%、FIPは16%で、2018年にそれぞれ14.5%、17.5%となり、2019年の率は計算中だという。ノーバック氏は、「2020年はゴールでなく折り返し地点。さらに漁業改善のために活動していく」と話した。
達成率向上のため、SFPは、加工業、輸入業、その他の水産業者が協力して業界全体で漁業を改善するための「サプライヤー円卓会議」の支援を継続する。現在150社が、マグロ類やカニ、シイラ、イカなど17の円卓会議に参加している。
マグロ類では世界に5つある既存の「かつお・まぐろ類の地域漁業管理機関(RFMO)」と協力して多くのFIPを立ち上げようとしている。常温保存可能なマグロ(缶詰など)のFIPは2017年に5.8%、2018年に13.6%と伸びてMSC認証品も増えている。刺身品質の生の冷凍マグロ、主に延縄漁業によるものは、認証品が0.1%、FIPが0.5%であり、このFIPは2017年に14件、2018年に17件、2019年に18件と年々増えている。円卓会議に参加する業者も27社から39社に。MSC認証は2件から6件になり、世界の生産量のうち認証品が15.3%から16.9%になった。ノーバック氏は「まだ割合は小さい。進捗が遅いからこそ、マグロ消費大国の日本に来た。国レベルのFIPがインドネシア、台湾、日本、韓国で始まれば、改善率に53%が追加され、75%に大きく近づく」と語り、2019年9月に始まっているインドネシアのFIPを紹介した。海鳥やサメなど野生動物の混獲対策もパッケージ化したFIPの大規模な実施は、SDG14の達成にも寄与すると述べ、「マグロを調達しているのであれば、是非、円卓会議に参加して、生産者が非競争のFIPに参加するよう働きかけてほしい」と強調した。
マグロ類の円卓会議に参加している北米の寿司事業専業の輸入卸「コロナリー・コラボレーションLLC(CCL)」の生原(はいばら)氏は、マグロ、特に超低温マグロの専門家だ。CCLが扱う水産物の75%はサステナブル(認証取得済み、またはFIP/AIP)だという。
北米の寿司ブームは1980年代からで、比較的迅速にスーパーマーケットのテイクアウト寿司が出現して安価になった。生原氏は、「率直に言えば以前はさほど品質が良くなくても受け入れられていた。しかし、いまや米国の日本食ビジネスは年商80-90億ドルで消費者も良い寿司の見栄えや味を分かってきている」と語った。
とりわけ寿司が生活の一部になっているY世代やZ世代は水産資源に関心を持ち、NGOの活動やインターネットを介して食品の由来や抗生物質の使用、奴隷労働への関与などを知りたがっている。「消費者は非常にパワフル」で小売業者や卸業者を突き動かす。「私は無形文化遺産に指定された和食に誇りを感じている。世界のマグロ漁獲量の4割を消費する日本には、サステナブルなマグロの使用を先導してほしい」と生原氏。
課題としては、未解決の奴隷労働問題とマグロを赤く加工する一酸化炭素(CO)の使用が米国で認められていることを挙げた。後者はマグロのリコールの大半を占め、CCLは消費者を欺くCO処理の完全禁止を求めている。最後に生原氏は、日々の仕事に追われがちな各ステークホルダーが持続可能性の向上を各種ツールで支えるSFPやシーフードレガシーなどと協働する大切さを語った。
客席から、漁獲戦略(持続可能な漁獲枠を効率よく設定できる枠組みを事前に決めておくこと)を立てることの利点を問われたキャノン氏は、「漁獲枠を設定する立場の人は多くの場合、科学的なアドバイスを聞かず、短期的利益のために不適切な基準を設ける。漁獲戦略を立てることは、科学への準拠や、政治的要素の排除に役立つ」と述べた。ノーバック氏は、円卓会議についての質疑応答で、「各国の代表者には、多数の企業の署名を添えて提言したほうが良い。円卓会議は、業界の声をRFMOの戦略に組み込んでもらうためのプラットフォームだ」と述べた。
労働条件をめぐる漁業団体とNGOの緊張関係を語った台湾からの参加者には、キャノン氏が、「生産国での立法を目指す。海上での監査方法は模索中だが、責任ある漁業スキーム(RFS)が候補になるだろう。尽力している大手企業とも協力して、業界の他企業や規制当局に呼び掛けていく」と答えた。
ジム・キャノン
スピーカー
サステナブル・フィシャリーズ・パートナーシップ 代表取締役社長 創設者
サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップの最高経営責任者。
アジア、欧州、米州にて漁業、林業、自然保護の問題に取り組む。1990年後期に国際連合食糧農業機関のワールド・レビュー・オブ・マリンフィッシャリーズの編集を担当し、2002年からはマクドナルドの魚類調達ガイドラインや年次調達評価のアドバイザー、2004年からはウォールマートの海産食品持続可能性についてのアドバイザーを務めている。2005年から2008年までは、海洋管理協議会 (MSC) の技術諮問委員会のメンバーを務め、また1997年から2006年まではコンサーベーション・インターナショナルに所属し、経済プログラムや政策センターの指揮を執る。ケンブリッジ大学にて生態学を、インペリアル・カレッジ・ロンドンにて環境経済、経営、水産を専攻する。2009年には、水産メディア、イントラフィッシュの「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選出された。
生原 幸希
スピーカー
コロナリー・コラボレーション LLC プロジェクトディレクター
マグロ業界で20年の経験をもつ。
築地市場のマグロ卸業者で修行しながら、「目利き」、「加工」、「検品」、そして「買い付け」について学び、専門家となる。
2002年に米国に移住し、それ以降、日本での経験を生かし、すしネタの買い付けから処理や等級付け、販売にいたるまでの作業を取り仕切っています。
特に力を入れているのが「超冷凍」(超低温)マグロであり、米国で‐60°Cマグロの最高の専門家の1人と見なされている。かつて扱いが難しかった‐60°Cマグロは、今や米国の一流寿司チェーンにおいて一般的となっている。
Culinary Collaborations LLCは商品の開発・輸入・流通・卸売りを行う企業であり、北米の大手寿司業者にサービスを提供している。寿司ネタの知識を積極的に共有する姿勢がクライアントに評価されており、米国最高峰の寿司プログラムのいくつかの開発を支援した功績をもつ。企業の使命として、100%自然で持続・追跡可能な最高級寿司ネタの買い付けにおいてクライアントをサポートし、その過程で彼らと連携することを目指している。