IUU(違法・無報告・無規制)漁業、破壊的漁業慣行、乱獲、そして、人権侵害は、すべて一体となって、漁業の持続可能性および社会からの承認を地球規模で脅かしている。まず、ウーロンゴン大学准教授クエンティン・ハンチ氏が、「テクノロジーを活用して透明性・トレーサビリティを担保し、漁業の信頼回復を図る」という全体テーマを提示した。
Global Fishery Watch(GFW)のトニー・ロング氏は、操業中の漁船が位置情報を共有する海洋地図を示しながら、自動船舶識別装置AIS(Automatic Identification System)、船舶追跡システムVMS (Vessel Monitoring System)、赤外線熱画像による船舶監視システムなどを紹介し、AISデータの不正操作への対策、VMSとAISのデータを重ね合わせる解析手法、洋上転載のモニタリングの難しさなどを説明した。現状、国や司法管轄ごとにシステムが分断されており、グローバルなトラッキングには改善が必要である。GFWは、ピュー・チャリタブル・トラスト(ピュー財団)とも協力してオープンソースのプラットフォームを構築し、洋上転載の問題にも対応する考えである。
ハンチ氏からの「2017年からインドネシアがVMSデータ共有に踏み切ったきっかけは?」という質問に対し、ロング氏は「違法行為を報告するための確実なモニタリングのためだ」と答えた。パナマ、チリなど、データ共有に踏み切る国が続いている。
漁船での奴隷労働など人権侵害の防止のためにも、テクノロジーの活用による船舶の追跡、監視は有効である。「透明性の確保は地球規模での管理を達成する費用対効果の高い方法で、コンプライアンスが全体として改善されるので、すべての国にとって有益だ」とロング氏は述べた。
ピュー財団のアマンダ・ニクソン氏は、石けんを買う場面を例に挙げ、「店頭に並ぶ商品は規制を守っていると思うのが普通。水産物にも適切な規制が必要」と、国際漁業ガバナンスの重要性を訴えた。ガバナンスが向上すれば市場の持続可能性実現にもつながり、消費者やバイヤーからの需要も高まる。ピュー財団は、守るべき適切なルールと罰則を設けることによる国際漁業ガバナンスの向上を重視し、地域漁業管理機関(RFMO)など、ガバナンスに関する業界代表者の議論を定期的にフォローしている。
ハンチ氏から「RFMOでは加盟各国の利害関係があり合意形成が難しいのでは?」と問われ、ニクソン氏は「確かに年に一度の会議ですべてを決めるのは難しいが、漁獲に関する戦略を策定し実行することが持続可能な漁業のためには重要である」と答えた。
中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)によると、2016年にWCPFCの認可を受けた運搬船のうちAISで追跡可能だったのは半数以下であり、AISのアルゴリズムによると、洋上転載の報告数に含まれていなかった日本沖の国際水域でも多数の転載活動が行われた可能性があるという。
違法な洋上転載を検知し、IUU漁業に関連のある水産物の輸送を阻止し市場で流通させないために、サプライチェーンの透明性を向上させる必要がある。「GFWと同様にテクノロジーを使ってデータを共有し、違法漁船が操業できないようにしていきたい。」と語ったニクソン氏は、さらに、「国際ガバナンスの議論の場では、業界代表者の反対に遭うこともしばしばあるが、一方で、多くの市場関係者がサプライチェーンに透明性を創出するためのプログラムを導入している。情報提供やガバナンスのメカニズムを発展させることは持続可能な漁業に直接つながる。市場からのさらなるアクションが重要である。」と市場関係者への期待を示した。
続いて、水産研究・教育機構の大関芳沖氏が、日本周辺海域における外国漁船の操業実態の研究調査を紹介した。集魚灯など夜間の光点情報の抽出と分析により漁船の操業位置が把握でき、これとAISに含まれる漁船ID、進路、船速等の情報と突き合わせると、どこの国の漁船が何を獲っているのか、ある程度推測できるという。この手法で東シナ海での中国船のサバ漁、日本海での北朝鮮のイカ漁などの操業の把握に努め、日本海では光点図に加え宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力を得た解析により、中国の二艘曳き網漁船の操業が判明した。
北西太平洋では中国のマサバ漁船の漁獲量の推定を行ったが、3~6カ月間滞在し漁獲を洋上転載して操業を続ける漁船の漁獲量を正確に推定するには、転載の頻度を把握する必要がある。2018年にはGFWとの情報共有を開始。同機構は新たな体制で北西太平洋での洋上転載の把握にも取り組む。「資源評価制度の向上を図り、資源の持続的利用のために研究を進めていく」と大関氏は述べた。
会場から「データの公開についての障壁は?」、「このようなテクノロジーは10年後にはどうなるのか?」などの質問が出され、大関氏は「まだ研究は始まったばかり」とする一方、「各国の漁業者と個別に話すと資源の持続可能性にサポーティブ。そのような考え方が各国代表団を動かせば、RFMOなどでも持続可能な漁業に向けた動きが急速に進むのではないか」と述べてセッションを締めくくった。
クエンティン・ハンチ
ファシリテーター
ウーロンゴン大学・オーストラリア国立海洋資源安全保障研究所 准教授 漁業ガバナンスプログラムリーダー
オーストラリア国立海洋資源安全保障センター(ANCORS)の漁業ガバナンス研究プログラムを率いており、漁業ガバナンスと海洋保全について国際機関と政府への助言を務める。幅広いプロジェクト管理の経験を持ち優れた研究とコンサルティングの力量がある。アジア太平洋地域全域で海洋ガバナンスとエマージングテクノロジー、海洋保全、漁業管理と開発に焦点を当てたさまざまな国際研究パートナーシップにおいて幅広く活動してきた。
漁業ガバナンス研究プログラムはいかにコミュニティーや国家が人と海洋環境との関わりを管理するかを研究し、我々の活動と影響を管理するための革新的なソリューションの開発をサポートしている。応用研究はコミュニティー、政府および産業と連動し、重要課題を分析し、現実の結果に目に見える影響をもたらす新たなソリューションを創出している。
主に以下に焦点を置いた多くのプロジェクトを有している。
・国境を越えた漁業における保護の負荷の評価および分配の多国間の枠組み
・沿岸漁業、気候変動と食の安全保障;海洋保全および統合された海洋管理
トニー・ロング
スピーカー
グローバル・フィッシング・ウォッチ CEO
商業漁業活動の透明性を高め海洋資源の持続可能性を向上することを目的とする独立非営利団体 グローバル・フィッシュング・ウォッチ の代表取締役である。
また、ピュー慈善信託の違法漁業を終わらせる活動の代表を務めていた。
グローバル・フィッシュング・ウォッチ は以下の 4 つの重要分野における活動を行っている。
- 漁業活動を監視する公共および無償の技術プラットフォーム
- 科学の発展のためのデータ共有を促進する研究および開発
- 漁業活動および透明性の利点に対する理解をより広めるためのデータおよび分析セルの提供
- 船舶の追跡データを公共の場に提供し、規則の遵守を助長して漁業の世界的な爪痕を明示するために組織された透明性プログラム
英国海軍において 27 年間勤務したのち海洋保全の活動を始めた。彼は水雷探知船と護衛艦の司令官を務め、その後海軍の作戦参謀チームの代表として大臣クラスの防衛計画と政策の補助を提供していた。
アマンダ・ニクソン
スピーカー
ピュー・チャリタブル・トラスト 国際漁業 ディレクター
科学に基づく政策の開発と提唱を通じて重要な海洋種を保全するためのピュー・チャリタブル・トラストの国際漁業ディレクターを務める。
乱獲を抑制することや、破壊的な漁具の影響を最小限に抑えること、違法、未報告、無制限の漁業を廃絶に向けて取り組んでいる。地域漁業管理団体や、公海上の商業漁業を規制する条約を統括する国際機関とともにこのような取り組みの支援活動に取り組む。
世界自然保護基金(WWF)に従事した経験を持ち、トラ、パンダ、ウミガメなどの絶滅危惧種を保護する国際的な取り組みを指揮する。また、世界20カ国以上での漁業において、目的外の種の偶発的漁獲を減らすことを目的とした主要政策およびフィールド・プログラムである、WWFのバイキャッチ・イニシアティブを開発し、主導した。
大関 芳沖
スピーカー
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 顧問
1981年東京水産大学増殖学科卒業。1987年東京大学農学系研究科修了。農学博士。1989年農林水産省入省、東北区水産研究所研究員、米国アラスカ水産研究所客員研究員、中央水産研究所生物生態研究室長、東京海洋大学客員教授併任、中央水産研究所資源管理研究センター長、本部審議役などを経て、2018年より現職。2017~2019年水産海洋学会会長。専門はマイワシ・サンマなど小型浮魚類の資源生態学・水産海洋学。