今年の基調講演では、環境省、外務省、東京都、水産庁と、海洋環境にかかわるキーとなる省庁などの登壇者が並んだ。それぞれの行政視点から、さまざまな分野間、および国際社会との連携をもって、海洋環境と水産資源のサステナブルな社会へ向けた具体的な取り組みと課題が紹介された。
基調講演トップの鎌形氏は、海洋環境を取り巻く国際的な動向と、海洋生物多様性の保全のための取り組みを中心に語った。
日本が議長国をつとめた今年のG20大阪サミットでも、海洋環境の課題は議論に上った。環境省が調査しているモニタリングサイト1000でも、サンゴの被度が2006年以降減少し、なかなか回復しない実態が観察されている。
世界規模での生物多様性を評価するIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)からも、アジア・オセアニア地域の海洋生物には強い懸念が示されている。持続不可能な水産養殖や乱獲がこのまま続くと、2048年までに水産資源が枯渇する可能性があり、またサンゴ礁の90%が2050年までに著しく劣化するとの、厳しい評価が出ている。
IPBES地球規模評価が「1980年からプラスチックごみによる海洋汚染は10倍に増え、267種以上の生物に影響が及んでいる。」と指摘している海洋プラスチックは、G20大阪サミットでも大きく取り上げられた。この問題についてG20では「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し、G20各国が対策に取り組む枠組みを採択した。
環境省ではプラスチックごみの削減に向けて、不必要な使用量の削減、再利用、回収など、上流から下流まで包括的な対策を進めている他、プラスチックとの賢いつきあい方を推進する「プラスチック・スマート」キャンペーンを行い、600以上の団体が登録している。
2020年を目標年とする「愛知目標」の一つとして、海域の10%を海洋保護区とする目標が掲げられている。改正自然環境保全法が2020年4月に施行され、沖合の海底を含めたより幅広いエリアに保全の網を広げることになり、この目標も達成される見込みだ。ポスト2020目標に向けて日本としては、「里山」の考え方による人と自然の共生を海にも広げる取り組みをはじめ、生態系を活用した防災・減災の推進、経済活動における生物多様性への配慮などを重視していく、と締めくくった。
鎌形 浩史
スピーカー
環境省 環境事務次官
東京都出身 1959年10月生まれ 1984年環境庁入庁
環境省大臣官房長、地球環境局長、大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長、内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)兼内閣官房原子力規制組織等改革推進室長兼環境省大臣官房審議官、会計課長、地球環境局総務課長、内閣官房内閣参事官などを経て、2019年7月より現職。
その間、環境省の設置に関わるほか、地球温暖化対策、福島の復興・再生、水俣病対策、循環資源対策等に携わる。