TSSS2019

P-1 特別講演 宗像の海から─日本文化に根ざす自然と人の共生

P-1 特別講演 宗像の海から─日本文化に根ざす自然と人の共生

自然の再生・循環とともに生きる心を、もともと日本人は持っていた

宗像大社 宮司 葦津敬之氏

 

第5回を数える東京サステナブルシーフード・シンポジウム。今年は初の2日開催で、2019年11月7日・8日に開催された。漁業現場から流通、小売、テクノロジー、行政、金融、その他幅広い分野から累計100名を超える幅広い登壇者を迎え、過去最大の規模となった。

主催者の日経ESGとシーフードレガシーからの開会挨拶に続いてシンポジウムの幕を開けたのは、福岡県にある宗像大社(むなかたたいしゃ)の宮司、葦津敬之氏による特別講演。

宗像大社は “「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群”として、2017年、国連の世界文化遺産に登録されている。そこで評価された文化がまさに、日本に昔から続く人と自然との共生を体現しているとして、葦津宮司はその歴史と文化、そして現在の海との関係、海洋環境のための活動を紹介した。

 

九州北端にある宗像大社の歴史は古く、天皇の皇祖神である天照大神(あまてらすおおみかみ)の神勅をくだされた三女神をまつる神社として、日本最古の歴史書『日本書紀』にも記されている。

宗像は日本最初の国際港でもあった。朝鮮半島、中国、さらにはマカオまで航路をつなぐ港として、大和朝廷と連携して外交・通商・国防の役割を担っていた。その存在がいかに重要であったかは、沖ノ島からおよそ8万点の国宝が出土していることからもわかる。

宗像大社には三つのお宮があり、それぞれに姫神をまつる。九州本土の辺津宮、その沖11kmの大島にある中津宮、さらに49km先の沖ノ島にある沖津宮だ。

2017年の世界文化遺産登録でキーワードとなったのは、霊性(スピリチュアル)、自然環境(エコロジー)、自然崇拝(アニミズム)。身の回りのすべてに神性を見出す、日本文化の原点である。三つのお宮はもともと社殿を持たず、江戸末期までは岩や木がそのままご神体として祈りの対象となっていた。

 

この宗像の海が今、気候変動の影響を大きく受けている。水深の浅い玄界灘は温まりやすく、夏の海水温度は約30℃と沖縄周辺の海域よりも高い。また位置と海流の関係からごみの漂着が多く、大量の海洋ごみにも悩まされている。

こうした現状への危機感から、宗像市では2014年から毎年「宗像国際環境100人会議」を開き、海の再生をテーマに次世代の育成をめざして、さまざまな活動を行っている。里山の竹を活用した竹漁礁づくりによる藻場の再生、漂着ごみのクリーンアップ活動、豊饒祭での稚魚の放流などを行い、また国際育成プログラムとして地元の小中学生を中心に、年数回のイベントによる海の環境再生にとりくみ、環境と観光の融合をめざしている。

宗像国際環境100人会議の2019年のテーマは「常若(とこわか)」。常若という言葉はサステナブルの言い替えだが、伊勢神宮の式年遷宮に代表される「常に若がえる」自然の循環という日本古来の考え方でもある。あらゆるものに神が宿ると考え、自然が神の依代(よりしろ)であるとした日本人の謙虚な自然観の中には、環境を保全することがもともと含まれていた。

 

木や岩、山々に祈りを捧げることは、人が自分をとりまく自然との関係を自覚する、ごく自然な行為である。そして自然に対する謙虚さこそが、持続可能な社会の維持へとつながる、と葦津宮司は言う。

めざすべきは、物質文明から生命文明(常若文明)への転換である。常に生命が生まれ代わり、永遠に命がつながっていく社会をめざす。それには自然の摂理を重視した文明が問われている、と語った。

 

 

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