近年、持続可能な水産物の調達を実現するため、MSCなどの国際認証を有効活用する動きが広がりつつある。消費の最前線で、国際認証はどのように活用され、今後どのように広がっていくのか。本セッションでは、大手小売業3社とMSC(海洋管理協議会)による報告が行われた。
MSC認証とは、MSCの厳正な規格に適合した漁業、企業にのみ与えられる認証である。現在は「MSC漁業認証」と「CoC認証」の2つがあり、前者は持続可能な漁業であることを認証するもの、後者はサプライチェーンの全過程で、認証/非認証の水産物を確実に区別することとトレーサビリティの確保を担保するものである。「認証を取得することによって、サステナブルな食品を求めるマーケットへのアクセスが確保され、その需要を高めることによって経済的メリットが得られる」と、MSCの石井氏はその意義を語る。
今回登壇したのは、MSCと認証品を取り扱う大手3社。セッション冒頭では、各社が自社の取組みについて報告を行った。セブン&アイ ホールディングスでは、2050年までの達成目標の1つに「持続可能な調達」を掲げ、生物多様性や人権、サプライチェーンなどの観点から取組みを行っている。現在、プライベートブランドのセブンプレミアムではMSC認証の辛子明太子や、フェアトレード認証のカカオを使用した「キュービックチョコ」を販売中。認証品の取扱いを始めたのは「ESG投資への対応」がきっかけ、と尾崎氏は語る。
日本マクドナルドもまた、「持続可能な食材の調達」を重要課題として挙げている。昨年8月には、MSC認証を取得した白身魚を使用したフィレオフィッシュの販売を開始。他にも、紙製品やコーヒー原料、フライオイルなど、様々な物品に国際認証を取得したものを採用している。その理由の1つに、岩井氏は「未来顧客の獲得と未来雇用への寄与」を挙げた。「今、小中学校でSDGsを学んでいる子供たちは、いずれ認証品を選び、社会に貢献している企業に就職したいと思うようになる」と岩井氏。今後、国際認証は「選ばれる企業」になるためのキーとなる、との見方を示した。
一方、インターネットの世界で認証への取組みを牽引するのが楽天だ。同社は昨年、7つの国際認証を取得した商品を集めたショッピングモール「EARTH MALL(アースモール)with Rakuten」を開設した。「インターネットショッピングが重要性を増す中、持続可能な商品の存在は避けて通れない」と眞々部氏。「学生はSDGsへの取組みに注目しており、就職先の企業を選択する理由にもなっている」と語り、採用面でのメリットについて指摘した。
だが、食の調達における国際認証の普及に向けた取組みは、まだ始まったばかり。消費者にも十分認知されているとはいいがたいのが実情だ。認証品を導入したものの、「残念ながらお客様からの反応は薄い」と語るのはセブン&アイの尾崎氏。「お客様の商品選びのポイントは、依然として品質や価格、健康が中心。サステナビリティも商品の選定理由となるよう、認証の意義をもっとアピールする必要がある」と語った。
同じように、楽天の眞々部氏も、国際認証に対する一般の認知度の低さを指摘する。「『認証があるから買う』という人はまだ少ない。とはいえ、エコラベルは、購入した商品のストーリーを深く知るための入り口となりうる。『あなたが買った商品はサステナブルなんですよ』とお伝えすることが大切」と、地道なPR活動の大切さを語る。
一方、認証を取得する過程でも、様々な関門が待ち受ける。「フィレオフィッシュでMSC認証を取得した時は、監査の方が厨房まで入り、『調理中に落としたり、間違えて別のものを作ったりしたときは、どう管理しているのか』『認証を取得していない食材が混じったものを販売することはないか』など、審査は詳細に及んだ」と語るのはマクドナルドの岩井氏。「営業も巻き込み、全社挙げてMSC認証を取得した」と、その苦労を振り返った。
今後、各社は国際認証とどう向き合いながらビジネスを展開していくのか。「企業にとって、エシカル消費はいわばブルーオーシャン戦略であり、未来顧客・未来雇用の方々を引き寄せる作用がある」と岩井氏。「Z世代に支持されないと、我々は生き残れない。いずれ認証ラベルの商品を消費者が選ぶ時代が来れば、事業コストは投資に変わる」と、尾崎氏も期待を込める。「一般の消費者を巻き込むためには、『意識は高いが、敷居は低い』という状態を作ることが大切」。そのためにもコミュニケーションを徹底し、サステナブルな商品が持つストーリー性を伝えていきたい、と眞々部氏は抱負を述べた。最後にファシリテーター役の山口真奈美氏が、「気候変動の影響も大きくなり、我々は重要なターニングポイントを迎えている。今こそエシカル消費を本気で実践していく時」と語り、本セッションを締めくくった。
山口 真奈美
ファシリテーター
一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事 株式会社FEM 代表取締役
大学院時代から環境科学、環境経済学の観点で地球環境保全と国際認証の研究の傍ら、環境教育、CSR(企業の社会的責任)、サステナビリティに関する活動に従事。ワールドウォッチ研究所の補助や財団・研究所等を経て2003年FEM設立。2006年から国際認証機関(Control Union)の日本法人立ち上げと代表も12年務めた。
現在主に、持続可能な責任ある調達、SDGs(持続可能な開発目標)、CSR、国際認証に関するコンサルティング・アドバイザリー・プロデュース・教育研修のほか、持続可能な社会のための事業活動と個々のライフスタイルを繋げるために、国際認証の普及啓発、エシカル消費の推進、環境ビジネスやオーガニック等の普及にも努めている。
(一社)日本サステナブル・ラベル協会 代表理事、(一社)日本エシカル推進協議会 副会長、(一社)オーガニックヴィレッジジャパン理事、環境ビジネス総合研究所理事長等、兼任。
石井 幸造
スピーカー
海洋管理協議会(MSC) プログラムディレクター
水産大学校卒。食品会社等勤務を経て、米国インディアナ大学にて環境政策・資源管理で公共政策学修士取得。その後、財団法人国際開発センターにて主任研究員として開発途上国での地域振興や環境関連プロジェクトに従事。2007年5月のMSC日本事務所開設時より現職。プログラム・ディレクターとして日本のおけるMSC認証やMSCエコラベル付き水産物の普及に努める。
MSCは、世界的に減少傾向にある水産資源の維持・回復に向け、認証とエコラベル制度を通じて持続可能で環境に配慮した漁業の普及を進めている国際的な非営利団体。現在、MSCの認証を取得した漁業による漁獲量は、世界の食用向け天然魚漁獲量全体の約12%まで拡大。
尾崎 一夫
スピーカー
株式会社セブン&アイ・ホールディングス コーポレートコミュニケーション本部サステナビリティ推進部オフィサー
イトーヨーカ堂入社後セールスプロモーション部に15年間在籍。2006年にセブン&アイ・ホールディングス転籍後に社会貢献を担当。2012年よりCSR統括部でグループ環境部会を担当。2017年よりグループ企業行動部会(行動指針、内部通報制度、従業員エンゲージメント調査、コンプライアンス、他)を担当。2019年よりサステナビリティ推進部で再びグループ環境部会を担当。本年5月に公表したセブン&アイ・ホールディングス環境宣言「GREEN CHALLEGE 2050」の目標達成に向け取り組みを進めている。
眞々部 貴之
スピーカー
楽天株式会社 サステナビリティ部 シニアマネージャー / 楽天技術研究所 未来店舗デザイン研究室
NGO、総合シンクタンク研究員を経て2015年より楽天グループのサステナビリティ戦略策定、ESG情報開示のほか、ステークホルダーと連携したソーシャルイノベーションの創出を担当。2018年からは、「未来を変える買い物を。」をテーマとしたウェブメディア+マーケットプレイス「Earth Mall with Rakuten」を楽天市場内にオープン。消費者、楽天市場出店店舗、他企業、大学等と連携し、消費者がMSC、ASC、FSC、RSPOなどの認証商品や、持続可能な社会づくりに繋がる商品をインターネットショッピングで買える環境づくりに取り組んでいる。技術士(環境部門、森林部門)。信州大学農学部卒、東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。
岩井 正人
スピーカー
日本マクドナルド株式会社 コーポレートリレーション本部CSR部マネージャー
1984年日本マクドナルド株式会社入社。入社以来、店長、複数の店舗の統括者として、お客様に「最高の店舗体験」をご提供することに尽力。
その後は本社に異動し、新商品開発担当、新規事業の推進を担当するなど、店舗が最高のパフォーマンスをお客様にお届けできるようサポート。
2014年9月より、環境関連を担当。日本全国約2900店舗あるマクドナルドとしての責任を果たすべく、SDGsの啓蒙活動をするなど、地球環境に貢献する様々な活動を推進